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大阪高等裁判所 平成2年(ネ)2088号 判決

控訴人 千代田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 島谷部恭

右訴訟代理人弁護士 田邨正義

同 川田政美

被控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 増田健郎

同 高田吉典

同 辻井一成

同 原田裕

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二主張

当事者双方の主張は次のとおり訂正、付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決四枚目表一二行目の「保検」を「保険」と、同五枚目裏八行目から九行目にかけての「被保険者」を「被保険自動車である本件自動車」とそれぞれ訂正し、同六枚目裏四行目の「助手席に」の次に読点を付加する。

2  同九枚目裏六行目末尾に改行して次のとおり付加する。

「六 被控訴人の主張に対する控訴人の反論

1 交替後の本件自動車の走行が訴外花子と被控訴人が共同で行っていたもので、運転者は両名というべきであるとの部分を争う。通常の自動車について運転を共同で行うというようなことはありえない。このことは、自動車を走行させるのに必要な各種装置が運転教習用など特殊な目的のための特別仕様車を除けば全て運転席附近に集中する構造になっていること(道路運送車両の保安規準、運輸省令六七号第一〇条、一一条)、経験則ないし公知の事実として事故防止には制動操作が肝要とされ、ハンドル操作にのみ依存することは危険であるが、通常の自動車の構造上運転席に運転者のいる状態で助手席からフットブレーキ(主制動装置)を操作することは到底不可能であること、さらに他の装置であるアクセル(加速装置)、クラッチ、方向指示器の操作等も助手席からは不可能であることなどから明らかである。そして、このことから運転席にいる運転者と助手席にいる者との間に自動車の走行に対する統制力、特に安全確保の見地からの制御力の点において本質的な差異が存することが明白である。そして、他の法令においても運転者は運転席にいるものであることを当然の前提としているのである(道路交通法七〇条、七一条の二第二号、第三号、八七条二項など)。

2 原告の主張2は争う。

3  同3は争う。

訴外花子が本件自動車の運転から離脱していないのであるから、仮に被控訴人も共同で運転していたとしても、年令条件特約は適用される。」

第三証拠《省略》

理由

一  当裁判所は、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は次のとおり付加、削除、訂正するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一〇枚目表三行目の「そこで、」を「ところで、運転とは、自動車に設けられた各種装置の操作により、発進、一定方向及び速度の維持もしくは変更、停車など自動車の走行について必要な措置をとることを指称するものと解するのが相当であるが、本件」と、同七行目の「運転席に座って、」から同一一行目末尾までを「運転席に座っていたとは当事者間に争いがないなく、本件自動車が毎時約三五キロメートルの速さで約四ないし六分で本件事故現場に差しかかったこと、訴外花子が本件自動車のクラッチ、アクセル、ブレーキの各ペダル及びハンドルを操作していたことを被控訴人は明らかに争わないからこれを自白したものとみなすことができる。」と、同一二行目の「しかし」を「そして」とそれぞれ訂正する。

2  同一〇枚目裏一二行目の「を認めることができ、」から同一一枚目表一行目の「処罰を受けたこと」を削除する。

3  同一一枚目表二行目の「訴外花子」から同四行目末尾までを「被控訴人が助手席から運転に加わっていたとしても、訴外花子がフットブレーキやアクセル等の運転装置の備わった運転席で主動的に操作していたのであって、被控訴人はこれを補助していたにすぎないというほかなく、訴外花子が本件自動車の運転から離脱していなかったと認められる。」と訂正する。

4  同一一枚目表六行目の「争いがない」から同八行目末尾までを「争いがなく、前記認定のとおり訴外花子が本件自動車の運転から離脱していなかったので、本件では二六歳未満不担保特約が適用される。けだし、二六歳未満不担保特約は一定年令未満の運転者の事故発生率が他の年令層に比し高いために、二六歳未満の者が運転している時に生じた事故については保険会社は保険金の支払いを拒むことができる制度であると解せられるので、二六歳未満の者が全く運転していないか、運転に関与していても運転の大部分を二六歳以上のものが担当するというような状況でない以上は、二六歳未満不担保特約が適用されるからである。」と訂正する。

5  同一一枚目表九行目冒頭から同裏一行目末尾までを次のとおり訂正する。

「四 よって、被控訴人の本訴請求は理由がない。」

二  そうすると、被控訴人の控訴人に対する本訴請求を認容した原判決は失当であるからこれを取り消し、被控訴人の控訴人に対する請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田秀文 裁判官井上清は退官のため、裁判官佐野正幸は転勤のため署名押印することができない。裁判長裁判官 吉田秀文)

〈以下省略〉

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